『生活が踊る歌 TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」
音楽コラム傑作選』発売記念
【高橋芳朗 × ジェーン・スー “ 六本木も踊る!”
トークライブ】イベントレポート(前半)
2019/07/12
2019年4月19日金曜日、東京は六本木のTSUTAYA TOKYO ROPPONGIにて、『生活が踊る歌 TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」音楽コラム傑作選』の刊行を記念したイベントが行われました。登壇したのは著者の音楽ジャーナリスト、高橋芳朗と、番組のパーソナリティーでコラムニストのジェーン・スー。集結した約50名のリスナーの皆さまを前に、イベントならではのトークと音楽で盛り上がりました。まずは前篇として、本、そして番組についてのトークをお届けします。
やっとできた番組本、そして番組のそもそも話
高橋(以下た):こんばんは、音楽ジャーナリストの高橋芳朗です。
ジェーン・スー(以下ス):こんばんは、ジェーン・スーです。よろしくお願いしまーす。
た:いや、ありがとうございます。お忙しいところ。
ス:ようやく番組からヨシ君の選曲本が出ました。おめでと~!
た:ありがとうございます。4月5日、僕のあの誕生日の前日に、出ました。
ス:みなさんのおかげで好調でして。
た:ありがとうございます。
ス:どんな思いで作られましたか?
た:番組を1人でも多くの人に知ってもらいたい。ラジオリスナーを1人でも増やしたい。その一心で作りました。
ス:でもね、すごい時間かかったよね。実はね。
た:そうね。でもね、時間かかってよかったな、というか。それこそ星野源さんのお仕事をやらせていただくようになって、『オールナイトニッポン』とかに出たことによって、そこから番組を聴いてくださるようになった方が大勢いるんですよ。広がりが出たというか。
ス:多田さん、男性の方からのメールです。
「リスナー歴1年ほどですが、高橋さんの選曲が絶妙で、これがきっかけで『生活は踊る』を聴くようになりました」ありがとう!
た:それすごいね。ありがたいですよね、本当にね。
ス:ありがたい。知ってる曲がかかるのも嬉しいですが、知らなかった名曲を聴くことができるのもありがたいです。最初の頃、番組始める前に色々話していて。AMラジオのリスナーには洋楽ファンは絶対いるはずだと。
た:はい。
ス:音楽を重要視する番組作りにしようって話が早々に出て、ヨシ君に頼んで、全部選曲してもらおうって。
た:そこのところ、ちょっと聞きたいんです、逆に。最初にこれだけ音楽をフィーチャーして、しかも洋楽をかけるっていうのは、誰の提案だったんですか? 橋P(*1)?
ス:橋Pじゃない?
た:橋本さんと古川(耕)さんと……最初3人でミーティングしたんでしょ?
ス:そうそうそう。
た:それから僕のとこ来たんですもんねえ。
ス:うん、でも洋楽メインでっていうのには反発がくるかもしれないけど、みんなが知ってる洋楽とか、知ったら好きになる洋楽とかもあるから。そこは、臆せず行こうぜっていう話をしてたんです。
た:番組の初回の1曲目がアイズレー・ブラザーズの「Work To Do」だもんね。そこでもう、覚悟をしたっていうかさ。
選曲ルールと曜日ごとの〝色〟
ス:音楽がまったく詳しくない人にもやさしい本になったね。こんなに懇切丁寧に説明してくれる本もなかなか無いですよ。
た:確かにね。あんまりね、音楽用語とかも使ってないから。専門用語とかもね。
ス:そうそうそう。だってさ、もちろん番組のコーナー自体に時間制限があるから(コラムの)1つ1つもそんなに長くないじゃん。
た:そうね、4ページくらい。
ス:長いと、読んでる方も疲れちゃうかもしれないけど、短いから……。放送を聴いてた回だと感慨もひとしおかも。
た:加筆もしてますから。聞いてた方も、それなりに読み応えはあると思うんです。
ス:小林さん40代女性からのメール。
「高橋さんの選曲には毎回感心しております。その日によって何かしらのテーマがあるような選曲の仕方が素晴らしいと思っています。週末の音楽コラムも興味しんしんで聴いています。初見の曲もたくさんあり、自分にとっては幅が広がった感じがします。これからもいろんな曲を聴かせて下さい」
た:はい。僕ね、テーマっていうことでは、あまり言ったことはないんだけど、自分の中に縛りを作っていて。例えば1975年の曲を1曲目に置くとすると、次は前後1年、74年か75年か76年の曲からしか選ばないっていう。そういう縛りをつくっていかないと、あまりにも膨大なアーカイブから曲を選ばないといけなくなるので、選曲しにくくなるんです。
ス:そのおかげでまとまった印象になってるんだね。年代が飛ぶと、やはりどうしても雑多な印象になるじゃないですか。録音技術も違うから。
た:そう。それこそ例えば、ポール・マッカートニーをかけた後に、ジョアン・ジルベルト(*2)とかは、気持ち悪いんですよ。やはり少し統一感がないと。
た:月曜日は絶対軽薄なやつ。
ス:そう。AOR(*3)とかね。
た:喋り手に合わせてね。あと、小倉さん(*4)の存在がすごくデカいんだよね。
ス:ほう、なぜ?
た:なんていうんだろうな、なんかめっちゃ元気じゃないですか、飛びぬけて。
ス:げーんきだよ! 人の恋愛バナシ大好きだし(笑)。
た:チープ・トリック(*5)みたいなパワーポップ(*6)とか、あとはストレイ・キャッツ(*7)みたいなロカビリーとか。
ス:はいはいはい。
た:それこそ、場合によってはクラッシュ(*8)とかのパンクとかもいけそうな感じの陽気さで、全然曲に負けないから。だから、小倉さんの日は……ああいう元気な人がいて良かったな、って感じはしますね。で、金曜日はディスコ(笑)。
ス:金曜日最高(笑)。いかに内容のない話をするかっていうことで。それに命かけてますからね。
た:でも、どうなんですかね? あんな真っ昼間からディスコとかかかって。
僕はみなさんの生活に寄りそう選曲を心がけているんだけど……。
ス:うん、でもね、疲れて最後のカンフル剤一発打たなきゃ、って時にああいうダンスっぽいのがかかると、「よっしゃ、行くぞ」ってなるから。
ビヨンセ『Homecoming』バナシ再燃
ス:豊原さん、30代女性の方です。
「高橋さんの番組中の選曲と、金曜の洋楽コラムが心地よくて大好きです。今まで全く洋楽に詳しくなかったのですが、芳朗さんがわかりやすく解説して下さるので、毎回そのアーティストやジャンルに興味をもってしまいます」
今日もね、Netflixの加入者が増えた(*9)んじゃないかって話をしてたんだよね。
た:(笑)。
ス:見て下さい、私のこのスウェット。ビヨンセ(*10)のコーチェラ(*11)の。このトレーナー、どちゃくそ高いんです。6万です。
(会場:え~っ!)
た:さすがベストセラー作家!
ス:届いたら、ペッラペラでしわもあるし。
た:でもこれ、寄付なんでしょ?
ス:そうなのよ。チャリティーなの。番組では話しきれなかったけど、彼女は啓蒙活動をしていて。
た:うん。
ス:アフリカ系アメリカ人の大学進学率を上げたいんですね。そうすることで社会での可能性をどんどん増やしていきたいっていうことで。そのために、服を売って売り上げの一部を寄付に回すということをやっていて。私はなぜか、若いアフリカ系アメリカ人たちの未来を切り拓くためにお金を払ったわけです(笑)。
た:ハハハ(笑)。まさかあなたが足長おばさんだとは。
ス:そうそうそう、私が足長おばさんになって。
た:(笑)。
ス:でもさ、ヨシくんとその話を途中までしてたんだけど、結局ビヨンセが今やってることって、啓蒙っていう点では女性であることなどがフィーチャーされてますが、それは80年代ではマドンナ(*12)がやってたことですよね?
た:ああ~っ、そうね。今日、マドンナの話もしたかったって言ってたもんね。
ス:「ガーリー・ショー」(*13)というのがあって。当時はエイズ患者とかが非常に差別されていた時代で。治らない病気とされていたり、ゲイの人権問題とかね。女性もものを言えなかった時代だったし。「ヴォーグ」(*14)以前のことですね。で、このツアーの映像を見ると、私は未だに涙が出てしまうというか。インスパイアリングなツアーなんです。それに続く感じがしますね、今回のコーチェラは……。(中略)日本のアーティストでも、いつかああいう人出て来てほしいですね。
た:そういう人ね~。
ス:いわゆる〝周辺化された人々〟ね。(中略)だってアフリカ系アメリカ人の人は、現代になっても酷い差別を受けて命まで落としてるじゃないですか。そういう自尊心がボロボロになった人たちを、どういうふうにアップリフトするか、明日に向かって生きていってもらえるか。そういうことをビヨンセは考えてる。いつか同じような志の周辺化された人々を啓蒙する邦楽ポップアーティストが出て来た時には、金曜日で紹介したいね。
た:ああ、いいね。それで一緒にマドンナとかも紹介すると。
ス:こういう人がいるよ、っていう。
た:でも本当に、『Homecoming』は皆さん、見てほしい。騙されたと思って(笑)。
毎日の音楽、こんなふうに選んでいます
ス:ちなみに、来週月曜日の選曲はいつするの?
た:えっとね、水曜日。
ス:前の週の水曜日?
た:うん。月曜の分だけ早めに入れてるんです。
ス:残りの火水木金の分は、どういうタイミングで選曲を始めるの?
た:金曜日の夜に、お酒を飲みながら。
ス:お酒を飲みながら、どうやって?
た:まずはかけたい曲を決めて、それをかけるにはどうしたらいいのか、っていうことを頭の中で組み立てていって、はめ込んでいくというか。
ス:なるほど。っていうことはつまり、かけたい曲が1曲目とは限らないということね?
た:そうそうそう。かけたい曲を軸にして、これだったら、こういう曲を入口にすれば、皆さんもテーマとかは掴みやすいかな、とかそういう感じですかね。
ス:今、大体7曲くらい選曲してもらっているんだけど、私たちが時間配分をミスって3曲しか掛けられない時もあるんです。でも、ちゃんと5曲、6曲かかった日の方が番組としては締まってるの。とにかくできるだけ順番通りにかけようと。そこは番組のプライドでもあるというか。
た:だから、そのくらいちゃんと力を入れて選曲してるんですよ。
ス:金曜日にする次週の火水木金の選曲は、どのくらいで終わるんですか?
た:あのねぇ……決まらない時は、最後の1曲が決まらなくて2日悩んだり。
ス:えーっ、そうなんだ!?
た:ホントに、マジで。気持ち悪くて。
しかも、それが掛かるかどうかもわからないのにね。
ス:そうだよ。
た:なんかね、そこはきれいに決めないとダメなんですよね……。
ス:これを見て、iTunesとかSpotifyでちゃんとリスト作って欲しいよね。
ス:今日もおしゃれな曲をかけましょうよ。
た:かけましょうか。
ス:だってせっかく、来て下さってるわけですから。今日は特別編ということで。
た:そうそうそう。ちゃんと真面目に選曲したんです。
ス:(イベントに)来た方限定の、洋楽コラムをやらないと!
(後編に続く)
『生活が踊る歌 TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」音楽コラム傑作選』
高橋 芳朗 著
2019年4月5日 発売
四六判/並製 214ページ
ISBN978-4-909646-16-3
定価:本体1,500円+税
*1 橋P…TBSラジオの橋本吉史プロデューサー。2016年4月の番組スタート時の担当プロデューサーだった。
*2 ジョアン・ジルベルト…1931年生まれ。ブラジルの歌手、ギタリスト。アントニオ・カルロス・ジョビンととともに、「ボサノヴァの神」と称される伝説的な存在。
*3 AOR…シングルのみではなく、アルバムを通してのトータルの完成度を重視した、都会的でメロウ、ムーディーな大人向けのロックのこと。典型的なアーティストとしては、スティーリー・ダン、ボズ・スキャッグスなどが挙げられる。
*4 小倉さん…TBSの小倉弘子アナウンサー。同番組の水曜日のパートナー。
*5 チープ・トリック…1977年にデビューした4人編成のアメリカのロックバンド。1970年代後半に日本で人気に火がつき、やがて本国アメリカでもブレイク。ハードロックをベースに、ポップでメロディアスな音楽性が特徴。
*6 パワーポップ…ロックのジャンルのひとつ。ハードなギターとポップなメロディーラインが融合したサウンドが特徴。ビートルズに代表されるイギリスのロック・グループのサウンドをルーツとするといわれている。
*7 ストレイ・キャッツ…1980年代に活躍したアメリカのネオ・ロカビリー・バンド。ブライアン・セッツァーを中心とした3人編成で、ロックにブルースやビバップ、カントリーを取り入れたサウンドで知られる。
*8 クラッシュ…イギリスのパンク・バンド。1976年に結成。セックス・ピストルズとともにパンク・ロックの代名詞的存在。後年はレゲエ、スカ、ロカビリーなど多様な音楽性を打ち出した。
*9 Netflixの加入者が増えた…イベント開催日(2019年4月19日)の『ジェーン・スー 生活は踊る』の放送(音楽コラム)では、Netflixで配信中のビヨンセ『Homecoming』をピックアップ。ふたりのトークによって、Netflix加入者が増えたのではないか、という読みでの発言。
*10 ビヨンセ…1981年生まれのシンガーソングライター、女優。1997年にガールズ・グループ、デスティニーズ・チャイルドの一員としてデビューし、ソロ活動へ。以降、現代で最も影響力のある女性アーティストと目されている。
*11 コーチェラ…コーチェラ・フェスティバルのこと。アメリカ・カリフォルニア州の砂漠地帯、コーチェラ・ヴァレーで、1999年から毎年一度開かれる野外音楽フェスティバル。開催規模はアメリカでも最大といわれる。
*12 マドンナ…1958年生まれのシンガーソングライター、女優、音楽プロデューサー。1984年の『Like A Virgin』が2100万枚を売り上げるメガヒットとなり、世界的なエンターテイナーに。以降、現在も精力的に活動中。
*13 「ガーリー・ショー」…1993年11月に、マドンナがオーストラリアのシドニーで行ったライヴのこと。このライヴの模様は、『The Girlie Show-Live Down Under』(DVD)として作品化されている。
*14 「ヴォーグ」…マドンナが1990年にリリースしたアルバム『I'm Breathless』収録のシングル。ハウス・ミュージックをベースに、「ヴォーギング」という独特の動きを取り入れたミュージック・ビデオの力もあり、彼女にとって最大のヒットとなった(ビルボード最高位1位、ダブル・プラチナ)。
プロフィール
●高橋芳朗(たかはし・よしあき)
1969年、東京都港区出身。TOWER RECORDS発行のフリーペーパー『bounce』~ヒップホップ/R&B専門誌『BLAST』編集部を経て、2002年よりフリーの音楽ジャーナリスト。エミネム、ブラック・アイド・ピース、カニエ・ウェスト、ビースティ・ボーイズらのオフィシャル取材の傍ら、マイケル・ジャクソンやレディ・ガガ、そして星野源らのアルバムのライナーノーツも手がける。共著に『ブラスト公論 増補文庫版:誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』(徳間文庫)、『R&B馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』(スモール出版)、『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』(NHK出版)などがある。
●ジェーン・スー
1973年、東京都生まれ。作詞家、コラムニスト。レコード会社等でのサラリーマン生活からフリーに転向。作詞やプロデュースに加え、ラジオ・パーソナリティーとしても活躍。現在はTBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』のMCを務めている。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ文庫)、『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)などがある。最新刊は、『女に生まれてモヤってる!』(小学館)。