差別と暴力と欲にまみれた世界を
シュールに描く
圧倒的な筆力が、
ブラック・シュールレアリズムの次世代を告げる!
有名紙や各メディアがこぞって取り上げ、
ロクサーヌ・ゲイや
コルソン・ホワイトヘッド、
ジョージ・ソーンダーズが称賛を送った規格外のアフリカ系アメリカ人作家、
ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤーの
鮮烈なデビュー短編集の初邦訳!
ホラーで不条理な
現実を描いた
フィクションとの共時性
映画・音楽ジャーナリスト
宇野維正
「ポスト・ホラー」というワードを海外の映画批評で頻繁に見かけるようになったのは、2017年に入った頃だった。これまでの良くも悪くも様式に準じたホラー映画ではなく、人種問題や経済格差などの社会的イシューをホラー映画というジャンルを援用して語る作品が、その頃から同時多発的に生まれるようになった。代表的な作品はジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』(2017年)と『アス』※1(2019年)。アメリカで2018年に刊行されたナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤーの短編小説集『フライデー・ブラック』は、ホラー小説ではないものの、ショッピングモールやテーマパークというホラーの典型的シチュエーションが主要な舞台に選ばれていることも含め、そうしたフィクション全体の新しい動きとの強い共時性を感じさせる。また、彼の短編小説に共通する日常と隣り合わせのシュルレアリスム的で不条理劇的なテイストは、ドナルド・グローバー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)がショーランナーを務めるコメディドラマ『アトランタ』※2(2016年〜)の独創性を特徴づけているものでもある。自分を取り巻く社会そのものがホラー。コメディとして処理するしかない不条理な現実。『フライデー・ブラック』には、そうしたマイノリティの表現者が獲得した最先端のナラティブが息づいている。
※1
『アス ブルーレイ+DVD』
(NBCユニバーサル・
エンターテイメント)
3,990円+税
2020年2月21日発売
※2
『アトランタ』(米・FX制作)
主演・脚本:ドナルド・グローバー
監督:ヒロ・ムライ
FOXチャンネル、
Netflixで視聴可
アフリカ系&アジア系アメリカ人による
同時代のアメリカ文学
①
『地下鉄道』
コルソン・
ホワイトヘッド 著
谷崎由依 訳
(早川書房)
②
『IQ2』
ジョー・イデ 著
熊谷千寿 訳
(早川書房)
③
『エレベーター』
ジェイソン・
レナルズ 著
青木千鶴 訳
(早川書房)
④
『ブラック・
クランズマン』
ロン・ストールワース 著
鈴木沓子、
玉川千絵子訳
(PARCO出版)
ブレニヤー氏とも親交のある先輩作家、ホワイトヘッドの2017年の長編で、ピュリッツアー賞受賞作の①/日系アメリカ人、ジョー・イデによるブラック版シャーロック・ホームズと言えそうなミステリーの傑作『IQ』の続編②/アフリカ系アメリカ人の新進作家、ジェイソン・レナルズの③は、全編ラップのような詩で綴られた斬新さが光る。/④は、コロラド州でアフリカ系アメリカ人初の警官となった著者の実話。白人至上主義団体の実態を暴く様が映画化された。
『フライデー・ブラック』の世界と呼応する#BlackLivesMatter時代のアメリカ音楽
①ケンドリック・ラマー/Alright(2015年)
② チャイルディッシュ・ガンビーノ/ This Is America(2018年)
本書の巻頭の言葉の引用元のラッパー、ケンドリック・ラマーは、著者とほぼ同世代。磨き上げた言葉と音楽センスで暴力的な世界に向き合う姿はブレニヤー氏の姿勢と近しい。『To Pimp A Butterfly』(2015年)収録の「Alright」①では、明るさの陰のほろ苦い世界観を感じる。/テレビドラマ『アトランタ』の主演&脚本をこなす才人の別名、チャイルディッシュ・ガンビーノの「This is America」(2018年)②は、MVが衝撃的。不穏なモチーフを多数登場させ、現代アメリカの問題をユーモラスかつ残酷に浮き彫りにする。
試し読み
目次
・母の言葉
・旧時代〈ジ・エラ〉
・ラーク・ストリート
・病院にて
・ジマー・ランド
・ライオンと蜘蛛
・ライト・スピッター ── 光を吐く者
・アイスキングが伝授する「ジャケットの売り方」
・小売業界で生きる秘訣
・閃光を越えて
・謝辞
・〈解説〉 藤井 光(英文学者、同志社大学教授)
・訳者あとがき
本を購入する
ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー 著
押野素子 訳
定価:本体2200円+税 978-4-909646-27-9
【著者プロフィール】
ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー
Nana Kwame Adjei-Brenyah
1991年、アメリカ・ニューヨーク州オールバニー出身。両親はガーナ移民。十代から文学に親しみ、ニューヨーク州立大学オールバニー校を卒業後、シラキュース大学大学院創作科で修士号を取得。2018年秋刊行の今作が新人作家としては破格の注目を集め、恩師のジョージ・ソーンダーズやロクサーヌ・ゲイ等が称賛。多くのメディアでも高評価を得て、今後が最も期待される作家の仲間入りを果たした。表題作は映画化も決定している。
連載:ブラックカルチャーを探して ーアメリカの現場からー
「こまくさweb」にて連載中!
『フライデー・ブラック』を通して感じた思いを、未だBLMの火が燃え続けるアメリカの今に照らし合わせてみました。センセーショナルな話題だけでなく、同時代人としてのアフリカンアメリカンの生活や素顔にも迫ってゆきます。